17/12月号 田中康夫の新ニッポン論54「インドーパシフィック」◆月刊VERDAD-ベルダ

17/12月号 田中康夫の新ニッポン論53「インドーパシフィック」
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ドナルド・トランプ大統領は11月上旬のアジア歴訪中、「インド-パシフィック」なる惹句(じゃっく)を演説で頻繁に用いました。

「私は、地域の平和と繁栄の為に、アメリカがインド太平洋地域の国々と、より強固な絆と友情で通商関係を新たにする事を提案する」。第29回APEC首脳会議開催に先駆けての挨拶です。

言わずもがな、APECはアジア太平洋経済協力の略称。而(しか)して「アジア太平洋」は、経済同友会代表幹事を務めた永野重雄氏の元で1967年に発足した太平洋経済委員会が提起した概念です。

星霜(せいそう)を経て2016年、「日本は太平洋とインド洋、アジアとアフリカの交わりを、力や威圧と無縁で自由と法の支配、市場経済を重んじる場として育て豊かにする責任を担っている」と安倍晋三首相は発言。中国への対抗策として「インド太平洋戦略」を掲げます。

「ディール(とりひき)」が行動規範のビジネスマンも、拡大する中国の世界的影響力への抑止策として、インドの興隆を強調する「インド-パシフィック」を打ち出したのでしょうか?

否、残念ながら違います。インドの、昨年度の国別輸入額は中国が610億ドル≒6兆7千億円でトップ。中国包囲網「自由と繁栄の弧」を日本が語っていた往時とは異なるのです。況(いわ)んや2535億ドル≒29兆4千億円ものビジネス調印を中国から謹呈されたアメリカに於いてをや。

トランプ大統領は、中国を刺激しない「ディール」として「インド-パシフィック」を歴訪中に多用し、「インド太平洋戦略」の換骨奪胎(かんこつだったい)を図ったのです。それはレックス・ティラーソン国務長官、ジェームズ・マティス国防長官、ジョン・フランシス・ケリー大統領首席補佐官の“産軍(さんぐん)出身トリオ”が差配するアメリカ政府の冷静で冷徹な意思表示なのです。

言わずもがな、太平洋・大西洋・インド洋・北極海・南氷洋の「五大洋」で地球の海域は構成されています。日本海、東シナ海、南シナ海の類いは、「太平洋」に包括される一廓(レイヤー)。即ち、「インド-パシフィック地域(リージョン)」とはアジア太平洋地域と同義語なのです。

貸し切り状態の故宮に足を踏み入れたドナルド&メラニア・トランプ夫妻が、習近平・彭麗媛(ほう・れいえん)夫妻と共に収まった写真は、株主資本主義の覇者と国家資本主義の覇者を世界に印象づけました。

地政学的にはインド洋、太平洋の何れにも接していない中国訪問時にもトランプ大統領が「インド-パシフィック」と語ったのは、その一廓(レイヤー)の別(わ)けても南シナ海、東シナ海は中国の主導権(イニシアチヴ)の下で「安定化」を、との役割分担論と捉えるべき。と述べるや悲憤慷慨(ひふんこうがい)される向きも居られましょう。

が、最近では時流に逆らう意味で用いられる「流れに棹(さお)さす」も元来は、竿(さお)を使って流れを下る如く大勢(たいせい)に従う表現。日本のみが唱える「インド太平洋戦略」に拘泥(こうでい)せず、「インド-パシフィック」の新しいレジームの中で資源輸入国ニッポンの地歩を確保すべきです。

現に9月中旬、首脳会談で「対中連携」を持ち掛けられたインドのナレンドラ・モディ首相は、中国が軍事拠点化を進める「南シナ海」の文言を共同声明の中に明記するのを拒み、「国際法の尊重」の抽象的表現に留まりました。外務、防衛両当局が次官級で話し合う「日印2プラス2」を閣僚級に格上げする提案も、SCO=上海協力機構に今夏加盟した経緯もあってか、継続協議となりました。

巧みに日中双方を天秤に掛け、(商都ムンバイからモディ首相の出身地グジャラート州のアフマダーバードを結ぶ)新幹線建設費用の8割以上に当たる8800億ルピー≒1兆6千億円の円借款を年利0・1%、償還期間50年の好条件で日本に呑ませたインド。流石(さすが)は「ゼロ」を発見した国家。なあんて感心している場合じゃないですよね。

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参考資料

「インド太平洋」 なぜトランプ氏はこう繰り返すのか BBC 字幕付き
http://www.bbc.com/japanese/video-41924217

日本政府もビックリ、インド版新幹線が走る危うい道
https://forbesjapan.com/articles/detail/18285

競争力で中国・インドに勝る日本が「負ける」理由
https://forbesjapan.com/articles/detail/18203

日本外交の目指すべき道 カナダからの教訓 With 孫崎享氏 BS11「田中康夫のにっぽんサイコー!」2013年1月13日
http://www.nippon-dream.com/?p=10107
番組フリップ
http://www.nippon-dream.com/wp-content/uploads/BS11-130113-D.pdf

田中康夫YouTube公式チャンネル「だから、言わんこっちゃない!」
Vol.140「インドーパシフィック」を語るアメリカの深意とは何か!米中関係の現実を直視せよ!
http://tanakayasuo.me/youtube#vol140

vol.143『今一度、拳拳服膺を! アジア太平洋からインド太平洋への大転換』 http://tanakayasuo.me/youtube#vol143

Vol.148 「米中Win-Win関係樹立! トランプ政権が掲げたインドーパシフィックの深意を再び説き起こす。」
http://tanakayasuo.me/youtube#vol148Win-Win

Vol.149「ぬかるみの世界インドにご用心! 上から目線でお花畑なニッポン朝貢外交を脱却せよ。」
http://tanakayasuo.me/youtube#vol149

日本政府もビックリ、インド版新幹線が走る危うい道
https://forbesjapan.com/articles/detail/18285

競争力で中国・インドに勝る日本が「負ける」理由
https://forbesjapan.com/articles/detail/18203

vol.144「最早ホバリング状態なTPP(汗) 今こそカナダの深意を日本は学べ!」
http://tanakayasuo.me/youtube#vol144TPP

日本外交の目指すべき道 カナダからの教訓 With 孫崎享氏 BS11「田中康夫のにっぽんサイコー!」2013年1月13日
http://www.nippon-dream.com/?p=10107

番組フリップ
http://www.nippon-dream.com/wp-content/uploads/BS11-130113-D.pdf