田中康夫の新ニッポン論

16/12月号 田中康夫の新ニッポン論㊷「職務給・職能給」◆月刊VERDAD-ベルダ

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「同一賃金・同一労働」の導入こそ、正社員と非正規労働者の格差を埋め、女性や高齢者も就労可能な環境を醸成し、消費や出生率の増大を、延(ひ)いては経済に好循環を生み、多くの世帯が豊かになる“魔法の杖”と喧伝(けんでん)されています。

本当でしょうか。同一賃金・同一労働の「先進国」たる欧州は職務給。日本は長きに亘って職能給。前提条件が180度異なります。仕事内容に応じて採用され、賃金も決まる職務給は、正社員・パートに関わらず同一賃金・同一労働を適用しやすく、他方で「終身雇用・年功序列」を労働慣行としてきた日本の職能給は、仕事内容だけでなく責任の度合いや能力、成果も加味して決まる給与体系。

仮に「同一賃金・同一労働=その時間さえ遣(や)り過(す)ごせば良いんだ」的な事勿(ことなか)れ主義が蔓延(まんえん)すると生産性は上がらず逆に、その仕事を片付けるべく正社員の残業が増加する皮肉な結果が齎(もたら)されます。

暖かな小春日和(こはるびより)の冬の日にファストフード店で、「ご一緒にポテトも如何(いかが)ですか」のマニュアルを超えて「美味しいアイスクリームが出たわよ」と機転を利かせて親子連れに伝え、売上げを伸ばした「同一賃金・同一労働」のスタッフを的確に評価し得る新たな職務給と職能給の合体(アウフヘーベン)こそ急務。

1947年=昭和22年施行の「職業安定法」は、強制労働や中間搾取の悲劇を防止すべく、労働者供給事業の禁止を掲げていました。高度経済成長期を迎えても、ビル管理、情報処理、事務処理、パーティ接待の4分野に人材派遣を限定。方針転換するのは、「労働者派遣法」施行の86年=昭和61年でした。00年=平成12年には33万人だった非正規労働者は、製造業への派遣が解禁された04年に140万人へと急増。15年には198万人。労働者の37・5%に達し、“平成の政商”たる人材派遣会社は我が世の春を謳歌(おうか)。昨今の日本の労働行政は、非正規雇用を増やすアクセルを踏み続け、雇用格差是正のブレーキも同時に踏み込む二律背反状態なのです。

加えて深刻な問題は、働き蜂ニッポンの労働生産性の低さ。経済協力開発機構=OECD加盟34カ国の労働生産性はルクセンブルグ、ノルウェーに続いて意外にもアメリカが3位。日本は下位の21位。国民1人当たり国内総生産=GDPも日本は18位。ヴァカンス消化が国是のフランスは17位、イタリアとて19位。豈図(あにはか)らんや労働効率の悪い「先進国(ニッポン)」なのです。

(株)電通に於ける労働環境が耳目を集めています。個々の社員の能力・適性・意欲・勘性(かんせい)を、更には齎された成果を如何に的確に把握し、評価するか。それこそが長時間労働是正に留まらず、疲弊せぬ職場環境を日本企業に創出する好機。にも拘わらず、「死者に鞭打つ」ならぬ「電通に鞭打つ」千載一遇(せんざいいちぐう)的心智(レヴェル)の報道が横溢(おういつ)しています。

深夜番組担当者が職務放棄し得る筈も無く、夜10時全社消灯は頭隠して尻隠さずな形式知。冷笑する同業者とてCMやドラマの撮影、新聞や雑誌の降版・校了の日付変更線越えは常。勤務終了後に一定時間の休息を義務付けるインターバル条項を労働協約するEU諸国を先ずは参考にすべきです。

が、EUと異なり職住近接から程遠い日本。鎌倉と港区在住者では睡眠時間に多寡が生じます。往々にして睡眠2時間で3日間、プレゼン準備に没頭する場合も。ならば、インターバル条項に満たぬ時間数を合算し、「有休」とは別に翌月以降に休暇取得可能な新しい発想を導入。更に最大2年間有効で、超過労働時間数をポイントとして貯金し、長期間のヴァカンス取得を可能とする制度の創設も。

とまれ、永田町秘書や霞が関官僚のトホホな勤務状況を尻目に、「ホワイトカラー」の働き方を創造的に一新する、ピンチはチャンスと捉えるべきです。

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★参考資料

17/02月号 憂国呆談 season2 volume79◆ソトコト

★参考資料(文字起こし)

2016年12月08日 TOKYO MX「モーニングCROSS 田中康夫 史上最悪な突っ込みどころ満載な自己弁護に終始したDeNAゲス会見 クリエイティヴな新しい「ホワイトカラー」の働き方」

 

「生島ヒロシのおはよう一直線」11月8日

電通強制捜査。職務給・職能給をめぐって
http://nippon2014be.hatenadiary.jp/entry/2016/11/08/081129

「モーニングCROSS」10月26日

「同一賃金・同一労働の死角」
http://nippon2014be.hatenadiary.jp/entry/2016/10/26/155148

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