田中康夫の新ニッポン論

17/2月号 田中康夫の新ニッポン論㊹「ベーシック・インカム」◆月刊VERDAD-ベルダ

https://tanakayasuo.me/reference/basicincome

17/2月号 田中康夫の新ニッポン論㊹「ベーシック・インカム」>>>PDFはこちら

本文原稿はこちらをクリックすると全文が表示されます。

2017年1月、フィンランドは2千人の失業者を対象に月額560€≒6万8千円を支払う制度を導入。国家レベルで最初の「ベーシック・インカム=BI」。バラマキ政策とは異なります。

「世界で最も競争的な経済を実現し、国民が極めて良好な生活を営む社会」とOECDが評価したフィンランド。生まれたばかりの乳児から老爺・老婆まで全ての国民に世帯単位でなく個人単位で分け隔てなく、最低限必要な所得を「配当」として届ける生存権としての所得保障=BIへ、従来の控除や手当の概念から抜け出しました。

BIを1人月額5万円、年間60万円支給。所得税率一律30%。この仮定で制度設計してみましょう。年収200万円の個人は60+(200☓0・7)=200万円。同じく年収200万円の4人家族は(60☓4)+(200☓0・7)=380万円。年収450万円の4人家族は(60☓4)+(450☓0・7)=555万円。勤労意欲を失わせ、人間を怠惰にする、との風評とは異なり、どの所得層も働くとその分、使えるお金が増える。それがBIです。

雇用や家族の形態は「多様化」し、人口構造は逆ピラミッド型。終身雇用の正社員が結婚し、子供を授かる前提で組み立てられた社会保障制度は、現実の社会と乖離(かいり)しています。貧困・失業・高齢・障碍(しょうがい)等の人々を支援する、従来型の社会保障は複雑で多層的。口利き等の裁量行政の温床となりがちです。生活保護や失業保険の受給者がアルバイトすると支給金額が削減されるのも、「廓=ゲットー」から脱却する意欲を減退させる“負のインセンティヴ”。反グローバリズムのアントニオ・ネグリに留まらず、新自由主義のミルトン・フリードマンも給付金として“負の所得税”=BIを提唱していた理由です。

少なからぬ読者諸氏は訝るでしょう。1人月額5万円のBIを1・27億人の国民に配当するには76・2兆円が必要。その「財源」はどうすると。経営者も含め組織から給料を得ている雇用者報酬が総額260兆円。所得税率を一律30%で78兆円。十分実施可能なシステムなのです。

個人所得税制に於ける所得控除は不要となり、税制と社会保障制度の統合が実現し、社会保険料の徴収や記録に関わっていた役所と経費、福祉給付で不可欠だった資力・財産調査に投じる人員も経費も不要に。斯くて、大きい政府・小さい政府の二元論を超越した、より良きアウトカムを生み出す効率的な政府や行政、経済や社会が到来。利益に課税する法人税から、事業規模や活動量に広く薄く課税する外形標準課税へと大転換すれば、BIだけでは救いきれぬ障碍者、母子・父子家庭への積極的な加算を実施する余裕も生み出します。BIとは「脱・行政の肥大化」「脱・福祉の切り捨て」を実現する触媒でもあるのです。

保険料納付が免除・猶予されている低所得者や学生も含めた、20歳から60歳迄の加入対象者全体の納付率が驚く勿れ40・7%と低迷する日本の国民保険は、既に破綻状態。現物支給の医療・介護を含め住宅・教育・出産等の扶助を受ける生活保護世帯は163万世帯に増大する一方、最低賃金労働者は年金や健康保険、税金の支払い義務を負い、「実質収入逆転現象」は解消されぬ儘。在宅の家事や育児や介護も、GDPに計上されない日陰の存在に留め置かれています。が、それらの営為を担う家族やパートナーのお陰で一意専心、GDP向上に貢献し得た記憶が読者諸氏にも蘇るでしょう。

一部の超富裕層とその他の大多数へと二極化を齎(もたら)し、雇用のあり方を激変させるIoTとAI。今こそ発想と仕組を変え、BI導入で「新しい生き方」の余裕を個々人に与えるべきなのです。

今年1月1日にフィンランドで試験導入されたベーシック・インカム。
10年前の2006年から日本でも導入すべきと提案し、2009年の総選挙でもマニフェスト『日本「改国」宣言』に掲げた田中康夫が、改めて『VERDAD』連載「田中康夫の新ニッポン論」で、ベーシック・インカムの意義と中味を述べています。

・連載バックナンバー>>>こちら
・VERDAD HP>>>こちら

月刊「VERDAD」についてのご紹介は>>>こちら

★参考資料

2009年総選挙のマニフェスト『日本「改国」宣言 発想を変え、仕組みを変えよう。』でのBIに関する公約
詳細はこちらをクリック→ PDF
歴代マニフェストとCM
詳細はこちらをクリック→ http://www.nippon-dream.com/?page_id=173
ベーシック・インカム導入で国民生活にゆとりを 『PiDEA』2011年10月号
詳細はこちらをクリック→ PDF
国会の場で初めてベーシック・インカムが議論された2010年2月26日 衆議院予算委員会での質疑動画&議事録
詳細はこちらをクリック→http://www.nippon-dream.com/?p=2618
2010年1月17日 ベーシック・インカムに関する挨拶と動画
詳細はこちらをクリック→http://nippon-dream.com/archives/aisatsu.htm
ベーシック・インカム構想に着目 「日刊ゲンダイ」2009年2月5日付
詳細はこちらをクリック→http://nippon-dream.com/archives/4_kikai2009.htm#165
ベーシック・インカムのアーカイヴ その1
詳細はこちらをクリック→http://www.nippon-dream.com/?cat=23
ベーシック・インカムのアーカイヴ その2
詳細はこちらをクリック→http://www.nippon-dream.com/?p=6792

1月19日のTOKYO MX「モーニングCROSS」でもベーシック・インカムに関して解説しました。

動画はYouTubeにアップされ次第、ご紹介しますが、当日、用いたフリップ5枚をアップします。

マニフェスト&選挙CM一覧
http://www.nippon-dream.com/?page_id=173

「ベーシック・インカムについて」一覧
https://tanakayasuo.me/reference/basicincome

 

-田中康夫の新ニッポン論
-

© 2024 田中康夫公式サイト