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「人間性回復」のためのクルマ文化論~僕のクルマ遍歴から考える~
「サンデー毎日」8月6日号に寄稿しました。

たかがクルマ、されどクルマ。
30数年に及ぶYa’ssyのクルマ遍歴を踏まえ、
ガソリン自動車の誕生から1世紀半、クルマを巡る「風土」を超えた文化論。

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ニャンと今回、1行12字×380行を1行15字×380行と勘違いした為、
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「人間性回復」のためのクルマ文化論~僕のクルマ遍歴から考える~

日本自動車工業会の統計に拠れば、昨年の乗用車新車販売台数は前年比1・6%減の414万台。トラック、バスを含めた四輪車全体でも前年比1・5%減の497万台。若者のクルマ離れが深刻と喧伝(けんでん)されて久しい超少子・超高齢社会ニッポンです。
他方でAI=人工知能を用いた自動運転技術の実証実験が進んでいます。更にフランス政府は7月6日、ガソリン車・ディーゼル車の販売を2040年までに禁止すると発表。加えてイギリス政府も7月25日に同様の方針を決定。既にドイツ連邦参議院でも2030年までの販売禁止を決議しました。
より多くの人々と荷物を、より速やかに目的地まで安全に送り届ける。それが第一義だったクルマとは果たして如何なる存在なのか。5台目からはアウディ200クアトロ、ルノー アルピーヌ・V6ターボ、3台のランチア テーマ8・32、BMW Z3と「脱オートマ車」人生を歩んだ僕の愛車遍歴を交え、改めて考えてみましょう。
最初に購入したのは、大学を卒業した1981年。国際関係論のゼミで同期、現在は学習院大学で学長を務める畏友・井上寿一(としかず)氏の紹介で、彼の中学時代の同級生が営業マンを務めていたヤナセでアウディ80GLEを選びました。
“なんとなく、ドイツ車”の中からアウディを選んだ決め手はハザードランプのスイッチ。欧州車の中でアウディだけが、ウインカーやワイパーと同じく、ハンドル脇にレバーが突き出た構造でした。
合流や車線変更時、進路を譲ってくれた後続車に感謝の気持ちを伝える日本特有の使い方が一般化するのは90年代に入ってから。今でこそ速度計を初めとするインストルメントパネル=インパネの一廓に位置するハザードランプのスイッチ。往時の日本車は例外なく、ハンドル裏側の付け根部分に設けられていたのです。それも押しボタンでなく、指先で左右に動かす形態の。
有り得ない、と僕は学生時代から疑問を抱いていました。急カーブを回った先に渋滞発生を目視したら、1秒でも早く異変を後続車に伝えるべく点灯させる。その為に存在するハザードランプを、ハンドルの裏側に手を回さねば作動させられないとは!
それはハザードランプが何故、必要とされているかを製造・販売する側すら的確に認識していなかった証左です。同様に運転する側も、トンネル内でライトを点灯すべき理由を理解していない向きが、未だに少なくありません。取り分け、高速道路に於いて。
成る程、トンネル内には照明が完備しています。前照灯(ヘッドライト)を点灯せずとも難なく運転可能。が、近頃、流行りの惹句(じゃっく)を援用すれば、「違うだろ~!」。斜め前方を走行中のクルマにも、自分自身の存在を知らせるべく、トンネル内でも点灯が必須なのです。
車線変更する際に一般道でも、ドアミラーの死角で斜め後方のクルマに気付くのが遅れて、ヒヤッとした経験をお持ちでしょう。高速走行時には猶の事。車線変更可能なトンネル内で接触事故に巻き込まれるのを防ぐ上で、点灯は極めて重要です。それは自分だけでなく相手の為にも。
同じく歩行者や自転車に、貴方が運転するクルマの存在を周知すべく、暮れ泥む(くれなずむ)時間帯、早めに点灯する習慣も大切です。故に警視庁交通部は日没前の夕方4時には点灯を、と「ライトオン16(イチロク)キャンペーン」を実施しています。
けれども依然として、日没後も無灯火で走行するクルマを散見するのは何故? 恐らく錯覚しているのです。前照灯の点灯の有無に関わりなく、エンジンを始動するとインパネの計器板が明るくなるから。であるなら、車外の明るさに応じて自動的にライトが点灯する仕組みを全ての車両に標準装備すべき。現に「上級車種」には導入されているのですから。
雨上がりに片側3車線の高速道路を走行すると、最後まで路面が濡れているのは一番外側の車線であることに気付きます。理由は簡単。走行する車両の数が他の2車線よりも少ないからです。登坂(とはん)車線と同様に、積載量の多いトラックの為に設けられた“格差車線”だと勘違いされています。
高速道路の法定最低速度を守りながら、窓の外に拡がる景色を後部座席の家族も楽しみつつ移動可能な、実は“豊かさ車線”かも知れないのに、週末や休日に走行する乗用車は総じて、真ん中の車線を選択する確率が高いのです。
中央分離帯側に設けられた追い越し車線の意味も、日本では正確に理解されていません。ヨーロッパとの大きな違いです。ミラノやパリの空港でレンタカーを借りて高速道路を走行する度に、痛感します。読んで字の如く、それは追い越し車線なのです。
仮に、排気量の大きなメルセデス・ベンツやポルシェを疾走させていた僕の後ろから、貴方が運転する排気量の小さなフィアットやミニが急速に接近してきたとします。追い抜きたい意思表示として、貴方は左のウインカーを入れています。(日本と同じ左側通行の国・地域では右のウインカー)
するとイタリアでもフランスでも「車格」の違いに関係なく、先行車は道を譲り、貴方は「自己責任」で更に加速して抜き去ります。日本では、ルームミラーで後続車の動向を確認しながら運転する習慣が根付いていません。故に、追い越した後も真ん中の走行車線に戻らぬ乗用車が多いのです。
渋滞している車列に大型車が激突する痛ましい事故の報に接する度、複雑な思いになります。無論、免罪される訳もありません。でも、追突されぬように我々も心掛ける必要はあるのです。前方だけでなくルームミラーで後方の状況を確認しながらハザードランプを点灯し、後続車に注意喚起すべく幾度かに分けて“ポンピングブレーキ”を踏み、徐々に減速して渋滞の最後尾に近付く。
今では、したり顔で講釈を垂れる僕ですが、80年代には全損事故を3回も体験しています。最初は1983年に軽井沢からの帰路、夜明け前の練馬区三軒寺交差点。運転していたのは、発売されたばかりのアウディ100CD。
当時、上信越自動車道は影も形もなく、群馬県藤岡までは抜け道を。大雨の中、関越自動車道を爆走して目白通りと接続する出口に差し掛かると交差点は赤信号。ブレーキペダルを踏み込むとハイドロプレーニング現象と呼ばれるスリップ状態に陥り、信号機をなぎ倒して止まります。
気付くと救急車の中。僕は左膝を二重に十数針も縫ったものの、幸いに助手席の“同伴者”は無傷でした。シートベルトの有り難みを思い知ります。
余談ながら、新聞各紙で報じられました。当日、大きなニュースがなかったのも理由で。田中角栄元首相に懲役4年の有罪判決が言い渡されたのは、その翌日。「1日違いなら良かったのにね」と病室に訪れた「笑っていいとも!」の横澤彪プロデューサーから、彼ならではの慰めの言葉を頂戴したのを想い出します。
閑話休題。自動車専用道での運転席・助手席のシートベルト着用が罰則付きで義務付けられたのは、2年後の1985年。一般道では平成4年の1992年。後部座席でも義務付けられるのは2008年。21世紀に入ってからです。
5W1Hの4Wを丸暗記させ、WhyとHowを問い掛けず・考えさせない戦後教育の成果なのか、反則金を納めたくないから仕方なく、寛いだ姿勢でシートベルトをする。こうした中途半端な対応は逆効果です。衝突・追突の際、衝撃で首がシートベルトで締め付けられて頸椎(けいつい)損傷。最悪、骨が喉に刺さって窒息する恐れもあります。
即ち、座席を大きく倒してシートベルトをする勿れ。理由その2は、膝のお皿の損傷です。リクライニング状態で事故に遭うと、シートベルトの下を体躯がすり抜けて、膝をダッシュボードに強打。半月板が割れてしまう可能性も高いのですから。
3度目の全損事故は僕が30歳の1986年。4重衝突でした。
ご多分に漏れず客室乗務員の交際相手を空港まで送り届けた直後の首都高速1号羽田線、上りの天王洲付近。乗用車の無謀な割り込みが原因で急ブレーキを掛けた貨物自動車2台が追突。そこに購入して僅か2週間のアウディ200クワトロ。続いて満タンの大型石油タンクリーリー。
前後のドアが食い込んで、開きません。エンジンも掛かりません。イグニッション・キーが辛うじて動き、窓から脱出。なかなか僕が出て来ないので、タンクローリーの運転手は最悪の事態を覚悟したそうです。トランクは衝撃を吸収してペッチャンコ。引火していたら一溜まりもありませんでした。ボンネットもグシャリと変形。
朝のラッシュ時とあって、見る見るうちに渋滞の列が伸びていきます。すると、職業運転手の1人が、「物損でいいですか」と尋ねました。幸いに僕も残りの2人も無傷。提案した方だけ、割れた窓ガラスで切ったのか、二の腕から血がにじみ出ています。
「じゃあ、非常駐車帯まで移動させよう」。僕のクルマが自走出来ないと判ると、彼らは機転を利かせてロープでトラックと結び付け、牽引し始めました。少しでも渋滞を緩和する為に。
乗用車ばかりの多重事故だったなら、警察官の到着まで誰も現場から動かそうとしなかったでしょう。事故自体を届け出ていれば、身体に後から何らかの支障が生じた段階で人身事故へと切り替え可能にも拘らず、物損での処理に難色を示したかも知れません。その分、現場検証に時間を要します。
“九死に一生”を得た僕は、当時は輸入品のみだったレスキューハンマーを運転席脇に装備しました。電動式の窓ガラスが作動しなかった場合にかち割るハンマー。衝撃でロックされた場合にシートベルトを切断するカッターも付いています。最近は1000円台と手頃な価格。ならば、これも前述の自動点灯と同じく標準装備化を省令で定めるべきです。
が、自動車業界は経済産業省、道路整備と運輸業界は国土交通省、交通管制は警察庁、環境規制は環境省。縦割り行政の宿痾(しゅくあ)なのか、「交通省」が一元的に扱う他国と異なり、国民の安心と希望に根ざした施策は滞りがちです。
昨秋、「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR , NO LIFE」に出演した際、「ゴールド免許」システムこそ机上の空論と異議申し立てすると、SNS上で「我が意を得たり」と意見が飛び交いました。
沢山買い物すると、ゴールド、ダイヤモンド、プラチナとクレジットカードは段階が上がります。運転免許証は異なります。ペーパー・ドライバー、サンデー・ドライバーほど、ゴールド免許の保有率が高いのです。斯くなる善男善女を対象に、半年に1回の実地教習を義務付ければ、リタイアした警察関係者の雇用創出に繋がります。
なあんて冗談は兎も角、運転時間と違反の度合いを相対化して評価すべく、既にICカード化された免許証をETCカード同様に差し込む方式を導入しては如何?
1日350kmは走行するタクシー・ドライバーを初めとする職業運転手の軽微な違反と、年に数回しか運転しないドライバーが一方通行を逆送する違反の点数を、同列に扱うのは少しく違うのでは。而(しか)して免停中の人間が家族の免許証を差し込んでのすり替え運転を防止すべく、ハンドルで指紋認証、将来的にはルームミラーで眼球の虹彩(こうさい)認証を行ってみては。
と知事時代、警察庁から赴任してきた4人の県警本部長に伝えるも皆、今ひとつの反応でした。運転免許を、何れの本部長も取得していなかった記憶も蘇ります。歩行者・自転車・二輪車・乗用車・大型車、それぞれの目線を持った交通行政が望ましいのですが・・・。
アクセルとブレーキを踏み間違える悲惨な事故が相次ぐ日本。高齢者の免許証返上を唱える向きがいます。一見もっともらしく、けれども路線バスもコミュニティバスもタクシーも乏(とぼ)しく、クルマなしでは日常の買物にも往生するのは一部の限界集落に留まりません。
寧ろ原点に戻り、70歳以上はギアシフトのクルマ限定免許にした方が現実的で安全。エンストするマニュアル車こそ、最大のブレーキ機能なのです。欧州では現在もMT車が85%を占め、フランス&イタリアに至っては94%! 逆に米国&日本は90%がAT車。
加えて日本ではAT車限定免許を取得する方が講習料金も廉価。楽をしたい人が優遇される摩訶不思議な資本主義国。「科学を信じて・技術を疑わぬ」日米と、「科学を用いて・技術を超える」欧州を象徴する“心智(メンタリティ)”の違いです。
2020年に向けて「おもてなし」を謳う日本のタクシーは、ロンドンと異なり旅行鞄を最大限2つしかトランクに積み込めないセダンが主体。羽田や成田、関空に到着した訪日客が嘆く所以です。
ロンドンに加えてニューヨークでも、日本の自動車会社が開発したミニバンNV200をイエローキャブに導入。なのに、潮流に逆行するかの如く東京では黒塗りタクシーが増えています。そんなに「高級感」を味わいたいなら、奮発してハイヤーに乗れば良いのにね。
欧米に続いて日本でも「タイムズ カー プラス」に代表される、一旦登録すれば専用ICカードをクルマにかざして最寄りの駐車場から15分単位で利用可能な、従来のレンタカーよりも遙かに便利なカーシェアリングが、ビジネスパーソンの間で定着してきたのが唯一の救いかも知れません。
好きな時に好きな場所へ、大好きな人と会話しながら音楽を聴きながら、好きな速度で出掛けられるのがクルマという存在。「モダンタイムス」以上に私たちが歯車化していくIT&AI時代に於ける「人間性の回復」と言えます。
12本の道路が交わる、信号が存在しないパリのエトワール凱旋門。ラテン気質で我先に突っ込み、接触しそうな直前に右優先というたった1つの約束事で見事に躱(かわ)していく“対話する個人主義”です。
翻(ひるがえ)って「集団主義」日本の運転文化は、豈図(あにはか)らんや“我が儘な個人主義”と呼び得ましょう。たかがクルマ、されどクルマ。ガソリン自動車の誕生から1世紀半にも満たぬクルマを巡る考察は、「風土」を超えた文化論でもあるのです。

関連資料

「おぎやはぎの愛車遍歴 NO CAR ,NO LIFE」2016年11月9日 文字起こし
http://nippon2014be.hatenadiary.jp/entry/2016/11/22/234522

「モーニングCROSS」「遅れたバブル発想(涙)ゴールド運転免許 机上の空論」2016年11月29日文字起こし
http://nippon2014be.hatenadiary.jp/entry/2016/11/29/184306

「生誕50周年 カローラと私」「日常の確かな豊かさ」
「中日新聞」「東京新聞」2016年11月5日
https://tanakayasuo.me/archives/19866

更にお宝的動画と記事を加えたサイトURL
https://tanakayasuo.me/archives/19957

その他の「サンデー毎日」での寄稿

『六本木「今昔物語」』
https://tanakayasuo.me/archives/20523

「愛犬は家族の一員~ペットと愉しめる真っ当な料理店~」
https://tanakayasuo.me/archives/20251

「ささやかだけど、たしかなこと。」
http://www.nippon-dream.com/?cat=30

「だから、言わんこっちゃない!」

4月23日 Vol.514『元通産官僚・飯塚幸三「閣下」の体調が最優先な島国ニッポン(涙) 「今後もルールに則り捜査を進める」と巧言する警視庁に頭が上がらず、 「強きを助け・弱きを挫く」誤送船団メディア記者クラブと運転免許を持とうとしない警察官僚の「リスクヘッジ」を解き明かす!』

 

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