田中康夫の新ニッポン論

17/8月号 田中康夫の新ニッポン論㊿「間違いだらけの日本の治水・治山」

17/8月号 田中康夫の新ニッポン論㊿「間違いだらけの日本の治水・治山」
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「福岡・大分両県を襲った記録的豪雨で氾濫した河川や浸水した地域は2012年の『九州北部豪雨』と重なる部分が多」く、筑後川水系の花月川も「同じ場所で越水や護岸・堤防の損壊が4ヶ所あった」と「西日本新聞」は報じました。

改修を重ねても河川の流れは簡単には変わりません。故に欧米諸国のみならず隣の韓国でも、過去に決壊した場所、決壊が予想される場所には堤防の両肩から基礎まで、鋼矢板(こうやいた)を縦に2枚打ち込む強化策を導入しています。

日本は異なります。建設省河川局が国土交通省水管理・国土保全局へと名称変更した現在も、「土堤(どてい)原則」に固執しています。堤防内に土と砂以外の“不純物”が混じるのは認められぬ、と真顔で彼らは語るのです。

コンクリート壁の隙間から水が浸潤(しんじゅん)し、堤防内では平時から液状化の状態。大雨で壁面が崩れると一気に堤防全体が破堤(はてい)してしまう原因です。鋼矢板を用いた恒常的な治水対策は、膨大な費用と歳月を要するダム建設やスーパー堤防とは異なり、地域を分断する家屋移転も伴わず、製鉄メーカーと地元の土木建設業者の両者がハッピーな嬉しい公共事業。

県知事、国会議員を務めていた12年間、国交省と折衝を続け、漸く2011年、鋼矢板を用いた治水に関する調査費が予算計上されました。が、翌年末の総選挙で僕が敗退するや沙汰止みとなり、その2年8ヶ月後の「関東・東北豪雨」で鬼怒川が200mに亘って決壊します。

すると僅か2週間で「高さ4mの仮堤防を2本設置」する「応急復旧工事」が完了。「石やコンクリートブロック」の「1本目よりも川側に、2枚の鉄板の間に土砂を敷き詰めた同じ高さの仮堤防」が竣工と「毎日新聞」が報じます。これぞ正しく「鋼矢板工法」。

けれども程なくNHKが、以下の続報を流します。「コンクリート製のブロックで補強」し、「強度を高めるため高さ4mの鉄製の板およそ600枚を設置」した国交省は「土堤原則」を貫徹すべく「2014年11月以降、仮設の堤防に代わる新たな堤防の建設工事を行う」と。日本の土木工学は未だに「天動説」の時代を生きているのです。

日本の国土面積に占める森林の割合は66・5%。その45%は戦後に造林された針葉樹の人工林。樹齢45年から60年の間に「2残1伐 列状間伐」と呼ばれる2列残して1列切る手入れを行い、光が差し込むようにせねば、針葉樹は高さも太さも望めません。

間伐経費は1ha辺り35万円。人件費が22万円と3分の2を占めます。これぞ中山間地域に雇用と活力を齎(もたら)す公共事業。知事時代、「信州木こり講座」と銘打って100時限の無料講習を美ヶ原の麓の林業総合センターで実施します。間伐予算を2・5倍に増やし、土木建設業者に門戸を開放。

間伐後も放置した儘(まま)の樹木が流倒木(りゅうとうぼく)となって川をせき止め、今回も被害を増大させています。

県産材活用の一環として、地元業者と共に信州型木製ガードレールを考案し、鋼鉄製と同じ強度認定を受けました。建設時には村道でも費用の65%が国庫補助の一方、ガードレールの設置費用は全額地元負担。既存のガードレールの製造元は製鉄会社系3社のみ。間伐・製造・設置の全てを地元企業が担う木製ガードレールは1km辺り5倍の地元雇用を創出します。

国土交通省5・8兆円、農林水産省2兆・3兆円に対し、森林国ニッポンの林野庁の年間予算は1桁少ない3千億円。間伐を含む森林整備費はその僅か8%に過ぎず、残りは谷止工と呼ばれる鉄やコンクリートを沢に打ち込む公共事業と林道の建設費。嗚呼(ああ)、「間違いだらけの日本の治水・治山」は一向に改まる気配が見えません。

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「砂防ダム」 「VERDAD」2014年8月号「田中康夫の新ニッポン論」⑯
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「国土強靱化」 「VERDAD」2013年5月号「田中康夫の新ニッポン論」①
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「社会的共通資本」 「VERDAD」2018年3月号「田中康夫の新ニッポン論」56
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