田中康夫の新ニッポン論

19/6月号 田中康夫の新ニッポン論71「言葉こそ武器」◆月刊VERDAD-ベルダ

19/6月号 田中康夫の新ニッポン論71「言葉こそ武器」

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「富すれば鈍する」「地位は人を駄目にする」。香ばしい「ニッポン凄いゾ論」を妄信(ぼうしん)する方々に相応(ふさわ)しき新しい令和の格言。

であれば猶の事、歩むべき道を見失っている時には臆(おく)せず諫言(かんげん)してこそ真の友人。その信条の下に僕は、「上等だぜ 幻冬舎(げんとうしゃ)商法 見城徹(けんじょうとおる)閣下。論より証拠 『日本国記』Cコード0095の史実。「21 日本歴史」でなく「95 日本文学評論・随筆・その他」で登録」と5月19日にツイートしました。

裏表紙に印字されるCコードは「読者対象・販売形態・内容分類」を示します。百田尚樹(ひゃくたなおき)閣下の『日本国記』を幻冬舎は「日本歴史」でなく、「随筆その他」として出版する確信犯。帯(こしまき)の「当代一のストーリーテラーが平成最後の年に送り出す」を援用し、フィクションなんだよ文句あっか、と居直るべきでした。

豈図(あにはか)らんや見城&百田の両閣下は突如、僕のアカウントをブロック。彼らは僕のツイートを引き続き読める一方、僕からは閲覧不能な「問答無用」状態。「この野郎、タナカ」と最後っ屁ツイート後にブロックする余裕が有れば、「顰蹙(ひんしゅく)は金を出してでも買え!」「言葉こそ武器」の見城語録も千鈞(せんきん)の重みでしたのに。

好事(こうじ)魔多し。同書の“腰巻き(オビ)”には大きな赤文字で別の惹句(じゃっく)も踊っています。「私たちは、何者なのか―。日本通史の決定版!」と。「通史」とは「ある特定の時代・地域・分野に限定せず、全時代・全地域・全分野を通して記述された総合的な歴史」を意味します。

仁徳天皇に関する19年前の新聞の記述を、出典も明記せず大胆不敵に1頁も無断転載。指摘を受けると第5刷で“しれっと”改変。本省からの訓令に反して「命のビザ」を発行し続け、敗戦後に外務省から解職された杉原千畝(すぎはらちうね)を礼賛する一方で、「人道主義の立場を取っていた当時の日本政府にも陸軍にも民族差別の意識がなかった」と力説する「歴史修正主義」。「日本通史の決定版」とは呼び得ぬ“ぞっき本”の如き代物です。

「ハッキリ言って幻冬舎って会社じゃなくて『組』。『見城組』なのでビジネスの契約とかじゃなく、『人間としてのスジ』っていう話なんですよ」と見城閣下の舎弟(しゃてい)を任ずる箕輪厚介(みのわこうすけ)編集者はインタヴューで広言。なのに、「死ぬこと以外かすり傷」が符帳(あいことば)の同社には哀(かな)しい哉(かな)、「仁義(スジ)」という倫理や惻隠(そくいん)の欠片(かけら)も窺えないのです。

「僕のツイッターが騒動を起こしています。これは偏(ひとえ)に僕の傲慢(ごうまん)と僕の怠慢(たいまん)が引き起こしたものだと思っています。作家の部数を公表したというミスを起こしてしまいました。公表した作家の方に心からお詫び申し上げます」。

サイバーエージェントとテレビ朝日、更に電通と博報堂が出資するAbemaTVの冠番組『徹の部屋』冒頭での謝罪の科白(せりふ)を含む、社長・社員一同名義での「お詫び」を幻冬舎HPに掲載。往時は中核派=革命的共産主義者同盟全国委員会の活動に共鳴(シンパサイズ)していた見城閣下は、ここでも「我が闘争」ならぬ「我が逃走」を決め込みます。

他方、「炎上事件」に巻き込まれた作家の津原泰水(つはらやすみ)氏は肝が据わっています。「そもそも私は一読者として剽窃(ひょうせつ)に関し、『日本国記』を批判してきた。そうした本を出版した『モラル』への謝罪しか求めていない。(その私に)批判を止めるよう(幻冬舎から)『圧力』があったこと、(その幻冬舎が増刷時に告知なく修正や追記を行っている)『日本国記』自体の問題についても対応して欲しい。読者に謝罪して欲しい。それは幻冬舎から作品を出している他の作家の名誉の為にもなる」。

過去に幻冬舎で計6冊を上梓(じょうし)の僕をブロックし、SNSでの発信を閉鎖し、「徹の部屋」も降板した見城閣下は長きに亘ってテレビ朝日「放送番組審議会」委員長でもあります。然(さ)れど、その公職も退くとは寡聞(かぶん)にして存じ上げず。同じく委員の秋元康(あきもとやすし)、藤田晋(ふじたすすむ)の両氏も、不可解で中途半端な「徹の逃走」に心痛めているでしょう。

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