VERDAD「田中康夫の新ニッポン論」Vol.115「景観とはなにか」

三井不動産・伊藤忠商事・日本スポーツ振興センター・明治神宮の事業主体4者が、

伐採本数を削減だの植栽再生計画を策定だの、アルゴリズムな巧言を弄する明治神宮外苑地区「再開発」。

建築には極めて社会性が求められます。ナポレオン3世がセーヌ県知事ジョルジュ・オスマンを指名し、凱旋門から放射状に拡がる大通り（ブールヴァード）を設け、

『個性化を認めた上での高品質な統一感』の高さや形状を建造物に求めた『パリ改造』が今日も私達を魅了するように。

“越後湯沢化”を阻止すべく2001年12月11日、「マンション軽井沢メソッド宣言」を軽井沢町長と条例制定に先駆けて発表。

経済的新自由主義の旗手たるオリックスの巨大マンション建設計画を断念させたYa’ssy。

数多これまで繰り返されてきた“手続き民主主義”の敗北を超えるには、

「考える葦」たる人間の五官･五感＝「勘性」に基づく、「的確な認識・迅速な決断と行動・明確な責任」の矜持こそが肝要。

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.115「景観とはなにか」。

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「軽井沢の街並みを保全する条例制定にご協力頂けませんか」。

“越後湯沢化”を阻止すべくリゾートマンション建設ラッシュに歯止めを掛けねばと2001年11月12日、県庁舎一階のガラス張り知事室で佐藤雅義・軽井沢町長は訴えます。

北陸新幹線車内で邂逅（かいこう）した小林陽太郎・富士ゼロックス会長、犬丸一郎・帝国ホテル元社長両氏の「理念無き開発には心を痛めているけど、我々が署名を募っても如何ともし難いだろうし」との述懐を想起した僕は、町長に提案。建築規制に留まらぬ、多元的な景観保全条例の立案前に、「マンション軽井沢メソッド宣言」を発表しましょうと。

往々にして“手続き民主主義”は、人々の願いと裏腹な結果を齎（もたら）します。当該条例案を議会が審議する間に提出された建築確認申請は、建築基準法の規定に適合する限り、許可せざるを得ないのですから。

「的確な認識・迅速な決断と行動・明確な責任」の矜持（きょうじ）を抱いて1ヶ月後の12月11日、「軽井沢の良質な別荘環境は日本の貴重な財産～マンション軽井沢メソッド宣言～」を連名で、1905年＝明治38年竣工の旧三笠ホテルで発表しました。

第一種低層住居専用地域のみならず第一種住居地域に於いても集合住宅は2階建て以下。20戸以上のマンションは戸当たり敷地面積を110平米以上。1棟の戸数は20戸未満。この方針に基づき、町の自然保護対策要綱と自然保護対策要綱取扱要領を翌年元旦付けで改正・施行します。

「脱ダム」宣言、「脱・記者クラブ」宣言に続き、何ら法的根拠を伴わぬ宣言を性懲りも無く発するのかと任意親睦団体「長野県政記者クラブ」所属の複数媒体は報ずるも、豈図（あにはか）らんや経済的新自由主義の“旗頭”と思しき日本経済新聞とテレビ東京が積極的に報じ、複数の開発業者が応じます。

「市場の要請を先取りし、先進的・国際的な金融サービス事業を通じて、新しい価値と環境の創造を目指し、社会に貢献」と企業理念を掲げる大阪発祥のリーシング企業（オリックス）が最後まで難色を示すも、長野県庁舎と同容量の土砂を群馬県側にダンプカーで搬出する無体（むたい）な計画が批判を浴び、断念します。

「軽井沢町の自然保護のための土地利用行為の手続等に関する条例」に加えて2005年12月22日には「軽井沢の美しく豊かな自然・景観は日本の貴重な財産～軽井沢まちなみメソッド宣言～」を発し、それに先駆け、建築家の團紀彦（だん・のりひこ）氏を軽井沢と飯田の「マスターアーキテクト」に任命します。

彼との2004年8月号「新建築」対談から僕の発言を再録。

「建築には極めて社会性が求められます。ナポレオン3世がセーヌ県知事ジョルジュ・オスマンを指名し、凱旋門から放射状に拡がる大通り（ブールヴァード）を設け、『個性化を認めた上での高品質な統一感』の高さや形状を建造物に求めた『パリ改造』が今日も私達を魅了するように、『都市計画』の社会性はby nameで誰かが提示しない限り、民主主義の成果を齎す議論は始まりません。信州での取組は、20世紀型の文明でなく未来へと文化を遺す為の公共事業、即ち新しいケインズのニューディールなのです」。

閑話休題。元環境大臣が首長を務める東京都が認可した明治神宮外苑地区「再開発」が耳目（じもく）を集めています。創業者の至言「三方よし」を企業理念に掲げる伊藤忠商事。HPトップに「街づくりを通して持続可能な社会の構築を実現」と大書きの三井不動産。文部科学省所管の独立行政法人・日本スポーツ振興センター。明治神宮。事業主体4者は、伐採本数743本に留め、植栽再生計画も云々のアルゴリズムな巧言（こうげん）を弄（ろう）します。

呵々（かか）。AI万能時代たればこそデシベル数で判定可能な騒音規制法のマニュアルと異なり景観とは優れて、考える葦たる人間の五官・五感＝「勘性（かんせい）」が求められているのにね。

「VERDAD」連載「田中康夫の新ニッポン論」バックナンバー

https://tanakayasuo.me/archives/category/verdad

「月刊VERDAD」HP

http://www.bestbookweb.com/verdad/aboutus.php

参考資料

「軽井沢の良質な別荘環境は日本の貴重な財産～マンション軽井沢メソッド宣言～」

http://yassy.system-a.org/keiei/seisakut/model/mansion.htm

英文　The quality resort environment of Karuizawa is a precious asset of Japan. = Declaration of the Karuizawa Method for Condominiums =

http://yassy.system-a.org/keiei/seisakut/model/mansio_e.htm

「軽井沢の美しく豊かな自然・景観は日本の貴重な財産～軽井沢まちなみメソッド宣言～」

http://yassy.system-a.org/keiei/seisakut/model/method2.htm