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「田中康夫の憂国政談」
「消費者重視の政治」で「ウルトラ無党派層」を掬い上げよ❣

与野党ともに「ウルトラ無党派層」の要請に応える具体的ヴィジョンを示せず、
「ポピュラリズム=大衆迎合」に陥るニッポン。
乳幼児も首相も誰もが1人の消費者との視点に立ち、
「救い・護り・創る」より良き社会を目指す「消費者資本主義」の「ありよう」を
『サンデー毎日』2021年12月12日号(11月30日発売)で語り尽くした
「言葉の力」による現代政治論!

「この国のかたち」ではなく「この国のありよう」を論じるべきとき
田中康夫の「憂国政談」

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田中康夫の憂国政談
「サンデー毎日」2021年12月12日号 「倉重篤郎のニュース最前線」

「消費者重視の政治」で「ウルトラ無党派層」を掬(すく)い上げよ!
「この国のかたち」ではなく「この国のありよう」を論じるべきとき

野党共闘の敗北によって成立した新保守体制を批判してきた本欄だが、田中康夫元長野県知事は、与野党ともに無党派層の要請に応える具体的ヴィジョンがなかったと看破する。乳幼児も首相も等しく「消費者」である時代に、より良い社会を目指す「消費者資本主義」とは何か? 類い稀な言葉の力による現代政治論をお届けする-―。

立憲民主党と日本共産党を軸にした野党共闘がなぜ勝てなかったか。その敗因、背景を分析してきた。

4年前衆院選の1000万の「希望の党」票に全くアクセスできなかった。つまり、有権者のど真ん中にある中道・保守リベラル層へのアピールが決定的に欠けていたのが一つであった。

二つ目に、共闘による「政権交代」の呼び掛けが、一般有権者の意識と大きくずれていた。本来チャレンジャーとして戦うべき姿勢が、中途半端に横綱相撲的対応となってしまった。さらに言えば、立民の政党としてのアイデンティティー、拠(よ)って立つ理念・政策が立党4年経過し、実ははっきりしていなかったのではないか。辻元清美氏の自己批判、敗戦総括であった。

三つ目に、テレポリティクスの悪(あ)しき復権を取り上げた。ベテランテレビマン・金平茂紀キャスターが、「露出が権力を作り出す」との観点から、自民党総裁選で延々と続いたメディアジャックがいかに同党有利に働いたか、一方で、本番の衆院選での手のひらを返したような自粛報道がいかにその弱点にまで届かない、おざなりなものであったかを指摘、維新急伸長の背景にも吉村洋文大阪府知事らスター政治家の露出戦略があった、と斬り込んだ。

ただ、まだ何か見落としている感がある。1つの映画からヒントを得たい。『ボストン市庁舎』というドキュメンタリーである。ボストン市という米国の一地方行政体にカメラを入れ、いかに同市がマーティン・ウォルシュ市長を先頭に住民の声を一つ一つ丁寧に拾い上げ、多面的、実践的に地域密着型行政を展開しているか、を描いたものだ。監督は巨匠フレデリック・ワイズマン。全編4時間34分。何と40にわたるそれぞれに独立した行政実務の現場シーンが、詳しい説明も脈絡もなく、延々と重ねられる。それでいて飽きない。

冒頭と最後のシーンは、電話窓口でのスタッフ対応だ。道路修理から野良犬の通報まで、ありとあらゆる住民からの苦情、陳情をエンドレスにさばく姿が描かれる。この行政サービスが原点なのであろう。その間の38シーンは、同性カップルの結婚式から多様性のための料理クラス開催まで、行政がここまでやるのか、という多彩な行政の実態と、スタッフ間、あるいは住民との間の徹底対話の場面を執拗(しつよう)に追っかけている。

行政とはかくも凄(すさ)まじきものか。率直に言って驚いた。住民(=有権者)が真に求めるニーズとは何か。それに応えるサービスはどこまで提供されるべきか。その行政を指揮・監督する政治家の役割とは何か、を考えさせる映画であった。

この稿では、田中康夫・元長野県知事に登場頂く。この映画は必見だと勧めてくれた人だ。野党の敗因のみならず、日本の政治に欠けている大切なものがそこにある、というのだ。まずは、この衆院選結果をどう見るか、から聞いた。

「自由民主党本部で選挙を取り仕切った久米晃・元事務局長が興味深い分析をしている。昔は自民6割、野党2割、残り2割が政治に関心のない無党派層。だが1988年のリクルート事件以降、自民支持が4割に落ち、野党2割は変わらず、無党派層が残り4割と膨れ上がったと。

特定の支持政党のない『ウルトラ無党派層』の中で実際に投票所に行く人たちは、その都度お灸(きゅう)を据えたり、期待を込めて1票を投じ、選挙の帰趨(きすう)を決める。2005年の郵政選挙は自民に、09年の政権交代選挙では民主に大勝をもたらした。彼らは今回、アベノミクス以来の自民党政治にお灸を据えたいが、野党共闘の『イデオロギー』にも食指が動かず、都議選は都民ファースト、衆院選は日本維新の会に期待した。経済的新自由主義の『自助』を掲げる両党だが、『改革派』イメージで捉えた」

その意味で維新人気は持続的ではない。実は今回の獲得議席は14年選挙の時と同数。比例票は前回17年より減っている。維新の中でも先の見える人は危機感を感じているだろう。05年選挙の小泉チルドレン、09年選挙の小沢チルドレンに続く維新チルドレンの誕生だ。舌禍事件も出てくるし、自民に寄り過ぎると存在感を失う。それが、1976年の新自由クラブ以来の第三極と呼ばれる政治勢力の宿命で、常に行きつ戻りつだ」

「飛び出す絵本」のような言葉の力が必要

野党共闘になぜ違和感?
「『安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合』が立民、共産両党間を仲介した。かつて野坂昭如氏は『右も左も蹴っ飛ばせ』と述べたが、『右も左も何だか違う』という無党派層は、市民連合という拳を挙げて声高に正義を唱和されると引いてしまう。『♯政権取ってこれをやる』タグを(立民は)掲げたが、政権を獲(と)れると有権者は思っていなかった。少しでもいい社会にしてほしいのに、政権交代という上から目線、父権主義(パターナリズム)的な発想の限界が出た。6項目の共通政策も相変わらずなイデオロギーの羅列。政策というのは、目指すべき社会のあり方と経済の果実が一目でわかる『飛び出す絵本』のような言葉の力が必要だ」

飛び出す絵本?
「どんな社会を作るかを絵空事ではなく、具体的かつ実践的に何をどう変えるのか、きちんと見える形にすること。法律や過去の実績を踏まえて解法を見出す演繹(えんえき)的思考ではなく、現実の暮らしから出発し、個別的にその問題点を整理し、改善策をわかりやすく政策化する帰納的思考が政治、行政に必須だ。『ボストン市庁舎』は『市民に扉を開く公正な市政』を作り上げる過程を描いている。市民の要望を受け、絶えざる対話によって問題を一つ一つ解決していく。これこそ無党派層が求めるコンシューマー・オリエンテッド(消費者志向)な行政であり、政治家の責務。それを僕は信州で実践し、今夏の横浜市長選でも12の取り組みを掲げ挑戦した。(4選を目指した現職市長に肉薄する19万4713票を獲得)」

「12の取り組み YOKOHAMA2021」
https://yokohama2021.me/pdf/flyer.pdf
「田中康夫独占インタヴュー120分 なぜ僕は、横浜市長選に挑むのか!」
https://yokohama2021.me/pdf/sunday_trim.pdf

消費者重視の政治?
「『消費者資本主義』という概念を僕は提唱している。『市場万能主義=私益資本主義』の暴走と破綻を事前に回避する上でも、利益を求める欲望経済を利用しつつも、社会にとって有用な企業を生み出す経済システムを創出すべきだと。乳幼児も首相も、誰もが分け隔てなく一人の消費者。米国型の『株主資本主義』も中国型の『国家資本主義』も壁にぶち当たっている。『公益資本主義』『納税者資本主義』の考えもあるが、前者は公益という名の国家益、後者は富める個人や組織の私益になり勝ちだ」

有用企業を生み出す?
「石油メジャー最大手エクソンモービルの定時株主総会(21年5月)で、同社の地球環境対策に批判的な物言う株主(アクティビスト)が推薦した取締役候補が3人も選任された。提案した投資会社の保有株式は僅か0・02%だったが、梃(てこ)の原理で大手年金基金や資産運用会社の賛同を得た。『寄り添う』という日本的なお題目でなく、『的確な認識・迅速な決断と行動・明確な責任』を併せ持ったリーダーが、ガラス張りの説明責任や製造物責任を直接対話で全うすべきだ」

消費者に直接恩恵が届く政策を

選挙制度にも注文が?
「郵便局では不在連絡票と一緒に免許証や保険証で本人確認する。ところが投票所で『投票のご案内』を差し出すと『◎◎さんですね』と係員が“一方的”に念押しする(苦笑)。午後8時までと公選法が定める投票所の3分の1を超える1万6967カ所が今回、「経費削減」を理由に閉鎖時刻を早めたがメディアは批判しない。投票率アップが見込める電子投票導入は議論にすらならない。投票用紙も、候補者・政党名に丸印をつけるのが世界の大勢だ。韓国では同姓同名ケースに備え、名前の上の付番に丸を付ける合理的仕組みを採用済みなのにね。

96年から始まった小選挙区比例代表併用制、これが政治に留(とど)まらず日本全体の劣化を招いている。1票の格差は声高に指摘されるが、『死票の格差』是正が欠落している。小選挙区で落選した候補が比例復活する悪しき制度も続く。

カネが掛からず、政策本位な政治が実現すると新聞各社が喧伝し、トップ会談で制度導入を進めた細川護熙(もりひろ)、河野洋平両氏もその後は一転、否定的見解を表明したのに相変わらずだ。今回、選挙情勢予測を悉(ことごと)く間違えたマスコミは投票日前日まで情勢調査を報じ続けて、バンドワゴン(勝ち馬に乗る)状態を作り出し、夜8時ゼロ打ち当確競争に明け暮れた。結果として有権者の投票意欲を削(そ)いでいる」

自民も消費者視点ない。
「岸田文雄首相の政治理念は曖昧なままだ。従来型公共事業と異なり可視化されにくいデジタル利権の縄張り争いが必至の分野に『デジタル田園都市構想』『デジタル臨時行政調査会』『全世代型社会保障構築会議』と3つも会議を新設、あろうことか竹中平蔵パソナ会長らを委員に起用した。

日本の12倍弱の人口の中国のスマートフォン決済は2年前の段階で年間2700兆円。全世界のクレジットカード決済と同額だ。日本は昨年4・2兆円。中国の露天商が首からQRコードを印刷した紙をぶら下げてキャッシュレス化しているのを楽天がやろうとしたら横槍(よこやり)が入った。普通の商店はそれでOKなのに何故、多額の税金を投入して“パパママ・ストア”にも端末を導入する新手のハコモノ行政を行うんですか?

財政支出が55兆円超もの巨額資金を投じる経済対策に、持続的な成長につながる明確な戦略は乏しい。18歳以下に10万円支給の目玉政策5万円クーポン券は、デジタルとは真逆の金券と封筒の印刷代、袋詰めの人件費に郵送代、事務局を務める代理店の中抜き費用が馬鹿にならない。10兆円規模の大学基金は、伏魔殿な特別会計の生まれ変わりだ。ガソリン高対策にも消費者視点が欠けている。僅か数日分でしかない石油備蓄の放出は“やってる感”でしかなく、1㍑あたり170円を超えた場合に石油元売り企業に最大5円分を補助する時限措置も、街場のスタンドの反発を招くだけだと石油連盟ですら疑問視する。韓国の方が一枚も二枚も上手(うわて)だ。11月12日から約半年間石油税を20%カットすると10月段階で決断した。消費者に直接恩恵が届く政策だ。

迷走し続ける今回のコロナ対策と似ている。夫婦で営む料理屋は1日6万円の休業補償で新車を買う余裕も1年半で生まれた。従業員を5人雇っている料理店はとてもその額では維持できず廃業に追い込まれる。皮肉にも「自助努力」に立脚しない政策で、日本は衰退するばかりだ。

広島選出の岸田氏は11月下旬、首相官邸で広島市の松井一実市長、長崎市の田上富久市長と面会した。2人が22年3月開催の核兵器禁止条約の第1回締約国会議へのオブザーバー参加を求めたのに対し、『日米の信頼関係をしっかり構築して、橋渡しをしていくのが手順だ』と返答した。米中間で地政学的優越性を持つ日本外交を世界の平和・安全のために活かすべきだ」

中国と米国の「同時通訳」ができるはず 

中国台頭どう見る?
「人権無視の習近平体制は大いに危惧するが、米国とツートップ経済大国となった中国が、半導体の生殺与奪を握る台湾と交戦して世界経済を大混乱させる程、想像力に欠けているとは考えにくい。台湾を今の香港と同じレベルの「一国二制度」化に持ち込みたいのだと思う。返還50年後の2047年までは高度な自治を認める約束を反故(ほご)にした「成功体験」を武力衝突なしに実現したいのではないか。が、であればこそ日本は地政的にも経済的にも中国と米国の同時通訳ができる立場を活かし、スウェーデン同様に黒子(シェルパ)的役目に徹し、世界から称賛されるべきだ。永田町にも霞が関にもそうした矜恃(きょうじ)と諦観(ていかん)がないのは残念だ」

野党共闘にも自民党政治にも消費者視点が致命的に欠落している。コンシューマー・オリエンテッドに徹すれば必ずや無党派層は評価してくれる。ボストン市が良き例だ。これが田中氏のメッセージであった。問題山積な人口378万人の横浜市だからこそ、そのポテンシャル(潜在的可能性)は高い、という。亡き瀬戸内寂聴さんは2000年の長野県知事選出馬を後押ししたが、私も同感だ。この人は根っこから政治家、なおやる気満々と見た。ボストン市化した横浜市政を見てみたいと思う。

くらしげ・あつろう 1953年、東京都生まれ。78年東京大教育学部卒、毎日新聞入社、水戸、青森支局、整理、政治、経済部。2004年政治部長、11年論説委員長、13年専門編集委員

たなか・やすお 1956年生まれ。一橋大法学部卒。作家。元長野知事。

毎日新聞デジタル
https://mainichi.jp/sunday/articles/20211129/org/00m/010/006000d

総選挙と消費者資本主義に関して、12月6日発売『ソトコト』1月号でも「憂国呆談」で浅田彰氏と語っています。
https://tanakayasuo.me/archives/31133
「憂国呆談」 『ソトコト』11月号
横浜市長選挙から、軍事施設の跡地の活用、米軍が完全撤退したアフガニスタンまで。
https://tanakayasuo.me/archives/30834

倉重篤郎「毎日新聞」元論説委員長による
「田中康夫独占インタヴュー120分 なぜ僕は、横浜市長選に挑むのか!」『サンデー毎日』2021年8月1日号
PDF https://yokohama2021.me/pdf/sunday_trim.pdf
エコノミストOnline https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210720/se1/00m/020/068000d
https://tanakayasuo.me/archives/30834


2021年7月8日 出馬表明会見動画@ホテルニューグランド
https://www.youtube.com/watch?v=0mKlPBwh9Xo

「創る・護る・救う」田中康夫 横浜市長選挙特設サイトhttps://yokohama2021.me
(選挙期間中の動画・インタヴュー等をご覧頂けます)

「12の取り組みYOKOHAMA2021」
PDF>>https://yokohama2021.me/pdf/flyer.pdf
「#横浜市長選挙」立候補への意志を固めた5月の連休に、横浜市在住の知人複数名に送った書簡
https://yokohama2021.me/pdf/may.pdf

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.95「消費者資本主義」
https://tanakayasuo.me/archives/29037
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.96「#横浜市長選挙」
https://tanakayasuo.me/archives/29501
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.97「帰納法 弁証法」
https://tanakayasuo.me/archives/30807
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.98「日本の選挙制度」
https://tanakayasuo.me/archives/30962
「田中康夫の新ニッポン論」Vol.56「社会的共通資本」
https://tanakayasuo.me/archives/22210

「怯まず・屈せず・逃げず」宇沢弘文さんとの想い出 「現代思想」2015年3月臨時増刊号「宇沢弘文 人間のための経済」
http://www.nippon-dream.com/?p=13762
PDF https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/379724bad4ae595295fd8efd5fe85d0d.pdf
宇沢弘文氏執筆「未来への提言~コモンズから始まる、信州ルネッサンス革命~」
PDF http://www.nippon-dream.com/pdf/tothefuture2011.pdf
http://www.nippon-dream.com/?page_id=161

天寿を全うした瀬戸内寂聴さんとの想い出まとめサイト
https://tanakayasuo.me/archives/31048

映画『ボストン市庁舎』
https://cityhall-movie.com/

久米晃・前自由民主党事務局長インタヴュー 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/826354/
久米晃・前自由民主党事務局長インタヴュー ダイヤモンドOnline
https://diamond.jp/articles/-/283017

「40年後のなんとなく、クリスタル」『文藝春秋』2021年2月号「巻頭随筆」
https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2021/01/c4a9fe3fe74f4a78ab9d6a3a95cf7988.pdf
「40年後のなんとなく、クリスタル」まとめサイト
https://tanakayasuo.me/crystal/footnote

『AOR AGE』Vol.21 「『なんとなく、クリスタル』とその時代」まとめサイト
https://tanakayasuo.me/aorage/

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