最新記事 田中康夫の新ニッポン論

VERDAD「田中康夫の新ニッポン論」Vol.120「治す・護る・創る」

「減災・防災」の要は「維持修繕」
手足の爪を切るのと同じく重機を用いて1㎡1万円で実施可能な河道掘削=浚渫こそ治水の基本
地元土木建設業者が胸を張って従事可能な地域密着型公共事業❣
前世紀型OS「造る」から「創る」へ
「田中康夫の新ニッポン論」最新稿「治す・護る・創る」

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「意識高い系」な面々が、首都圏の洪水を防いだ「救世主」と称揚する八ツ場(やんば)ダム。利根川支流の吾妻川(あがつまがわ)に位置する同ダムの洪水調節容量は驚く勿(なか)れ、利根川水系全体の僅か1%に過ぎません。

総事業費5320億円。72年前の1952年=昭和27年に計画発表。68年後の2020年=令和2年4月1日(しがつばか)に正式運用開始。前年2019年10月12日に列島上陸の台風第19号ハギビスの豪雨を八ツ場ダムが受け止め得たのは試験湛水(たんすい)開始が同月からで、ダム湖が空っぽだったが故の“僥倖(ぎょうこう)”。

「減災」の肝心要(かんじんかなめ)は維持修繕。手足の爪を切るのと同様に、重機を用いて1㎡1万円で実施可能な、小忠実(こまめ)で適度な河道掘削(かどうくっさく)=浚渫(しゅんせつ)こそ治水の基本。地元の土木建設業者が胸を張って従事可能な地域密着型公共事業です。

県土面積が全国4位の信州・長野県知事時代、台風一過の秋季に土木部・農政部・林務部の技術系職員を総動員して県管理の河川を総点検。浚渫の補正予算を県単独で計上。3千万円に満たぬ金額なれど地域経済にも確実に寄与。

「治す・護る・創る」よりも「造る」を重んずる前世紀型OSニッポン。財務省が「部・款・項・目・節(ぶ・かん・こう・もく・せつ)」と細分類する治水の予算項目に「浚渫」は存在しません。当該予算を別立てせぬ政府と自治体は「維持修繕費」の大半を現場建設事務所の人件費等で消化。

縦(よ)しんば八ツ場ダム建設が「必要悪」だったとして、竣工までの68年間に投じた浚渫費用は如何程(いかほど)かと河川管理者に質(ただ)しても、記録が見当たらずと言葉を濁すでしょう。護岸の補強、上流域の森林整備と並んで治水の基本である浚渫は全国津々浦々で滞っています。

堤防を越えて水が溢(あふ)れ出る「越水(えっすい)」。堤防そのものが壊れる「破堤(はてい)」。一度(ひとたび)決壊するや溢れる流量と速度は激変し、物的被害も人的被害も桁違い。破堤に至る原因の8割は越水です。

自然の摂理たる決壊の悲劇は幾度(いくたび)かの河川改修を経ても猶、同じ場所で繰り返される蓋然性(がいぜんせい)が極めて高いと理解する米国や欧州、そして韓国では過去の決壊箇所の護岸強化に、堤防の両肩から基礎まで鋼矢板(こうやいた)を縦に2枚打ち込む護岸工法、若しくは土砂と膠灰(こうかい=セメント)を混合して固めたソイルセメント工法を導入済み。

白砂青松(はくしゃせいしょう)の海岸に無味乾燥な消波ブロック(テトラポッド)を並べる一方、混凝土(コンクリート)壁の隙間から水が浸潤(しんじゅん)して平時から堤防内部は“液状化現象”に陥りがち。土と砂利以外の「不純物」が堤防内に混じるのは馴染まないと「土堤原則」を掲げる国土交通省河川局改め水資源・国土保全局。鋼鉄(スチール)も混凝土も、他の公共事業では「不純物」どころから必須の素材ではありませんか。

「科学を信じて技術を疑わず」から「科学を用いて技術を超える」心智(ちえ)に則り、“治水の父”たる畏兄・今本博健京都大学名誉教授と共に知事時代、国会議員時代の計12年間、鋼矢板工法を提唱するも聞く耳を持たなかった政府は、皮肉にも僕の退任後に破堤した千曲川で「鋼矢板工法」を実施。が、それは飽く迄も「社会実験」としての特殊事例なのです。

アイヌ民族居住地だった北海道沙流郡(さるぐん)平取町(びらとりちょう)の沙流川に反対を押し切り建設された二風谷(にぶたに)ダム。「沙流」とはアイヌ語で葦原(あしはら)。沙流川とは大雨が降り水嵩(みずかさ)が増す度に河口が土砂で塞がる河川を意味します。チプサンケと呼ばれる舟下ろし儀式の地は推定堆砂量100年分の2倍、即ち200年分の堆砂が僅か10年間でダム湖に堆積。土砂放出に伴い下流域で産卵の鮭、柳葉魚(シシャモ)は壊滅状態。

「促ダム・脱ダム」二項対立の前に、「的確な認識・迅速な決断と行動・明確な責任」の気概で「今そこにある危機」に対処してこそ、「政治」の統治・平定なのにね。

「間違いだらけの日本の治水・治山」まとめサイト

https://tanakayasuo.me/forest

水害は『脱ダム』のせいなのか!?田中康夫の実践的『治水・治山』原論

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2019/11/2483bc3c1af4c33cdd7ef6aba9fddfdc.pdf

すさまじい堆砂の二風谷ダム

https://suigenren.jp/news/2022/07/11/16548/

 

Vol.119「増税なき財政再建」

https://tanakayasuo.me/archives/36910

冬季オリンピックの負の遺産を抱え、「財政再建団体」転落寸前だった信州・長野県。行政経験が皆無だった44歳の田中康夫は、如何にして「福祉・医療・教育への傾注投資」と「財政の健全化」を両立させたか! https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/12/a7ff7d7135f1aa2c71991edcc7b0903c.pdf

Vol.115「景観とは何か」

https://tanakayasuo.me/cityscape

「従来のハコモノ土木建築」から「私たちの文化を遺す公共事業」への転換とはなにか?“越後湯沢化”を防ぐべく、街並みという景観の保全を「マンション軽井沢メソッド宣言」「軽井沢まちなみメソッド」で成し遂げた田中康夫が、明治神宮外苑地区「再開発」の欺瞞を看破する。

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/07/3c049cbb702968a4e701ff5df14e1cee.pdf

 

Vol.118「ウルトラ無党派層」

https://tanakayasuo.me/archives/36848

10年近くに亘って6割を超える有権者が「支持政党なし」💢既成政党への絶望を示す時事通信世論調査。遂には66・7%を記録した2024年1月調査

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/10/bc88a08a7b9247b5e9574ccb28ed1333.pdf

 

「田中康夫の新ニッポン論」バックナンバー

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/20150717182141.pdf

 

 

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