最新記事 田中康夫の新ニッポン論

VERDAD「田中康夫の新ニッポン論」Vol.121 「小さく産んで大きく育てる」

「知事、公共事業は『小さく産んで大きく育てる』ものです!!」

往時44歳のYa‘ssyに土木部長と農政部長は述べました。

需要の変化や景気の状況に応じ、途中で一旦休止する選択も可能な道路建設と異なり、途中で事業を中止したら投資効果ゼロな「ダム・隧道・橋梁」は、一度走り出したら止まらぬ追加予算3兄弟。

2000年の就任当初に発覚した高原野菜で知られる長野県川上村の、当初予算19億円が68億円に膨れ上がった「ふるさと農道緊急整備事業」橋梁工事。

岐阜県の木曽川水系揖斐川では1957年=昭和32年に計画され、51年後の2008年=平成20年に竣工した徳山ダムの事業費が3550億円に膨れ上がり、映画『水になった村』で描かれた徳山村の8集落522世帯はダム湖の湖底に眠っています。

「減災・防災」の要は「維持修繕」! 地元の土木建設事業者が胸を張って従事可能な地域密着型公共事業を実践したVol.120「「治す・護る・創る」に続くYa‘ssyの「新ニッポン論」最新稿Vol.121「小さく産んで大きく育てる」

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信州・長野県知事就任直後の2000年11月、千曲川の源流を擁する南佐久郡川上村での車座集会に出向いた僕は、無人駅の小海線信濃川上駅真上に建造中のウルグアイ・ラウンド対策「ふるさと農道」の巨大橋梁(きょうりょう)に驚愕します。

選挙中に訪れた隣接する北相木、南相木両村の狭隘(きょうあい)な道路や農地と異なり川上村は、道路改良も土地改良も随分と整備されているではないか。週明けにガラス張り知事室で農政部長に質します。

すると事も無げに返答。「首都圏への高原野菜(レタス)の安定供給に不可欠な公共事業。高さ78メートルの橋脚2本を一跨ぎする『上部工(じょうぶこう)=橋桁』も発注済み」と。

当初予算19億円。その段階で3倍強の68億円にも膨れ上がっていた予算書の同年度分に、発注済み「上部工」の金額は見当たりません。訝(いぶか)ると、「債務負担行為」で次年度に“表返し(おもてがえし)”しますから心配無用。しれっと答えます。

国や自治体の予算は単一年度で完結するのが原則。一方、単年度で終了せず、次年度以降も負担=支出が求められる公共事業に於いては、後年度の債務負担を「官」が約束する“性善説”に則(のっと)り、「民」は発注の橋桁を製造中。

「官は倒産しない神話」の流儀。一度(ひとたび)走り出したら止まらない「追加予算」三兄弟「ダム・隧道(ずいどう)・橋梁」に関する、別の苦い想い出も蘇ります。

「山肌を削り取り、樹木を切り倒し、『明かり部』を設けて道路を建設するよりも、環境に配慮した隧道の方が知事らしいではありませんか」。

その甘言に絆(ほだ)され、当初予算で決裁(けっさい)すると程なく、土木部長がガラス張り知事室へ駆け込んで来ます。「想定外に脆弱な地質に対応すべく、掘削費用の増額を補正予算で計上させて頂きます」と。

需要の変化や景気の状況に応じ、途中で一旦休止する選択も可能な道路建設と異なり「三兄弟」は、途中で事業を中止したら投資効果ゼロ。竣工まで予算が際限なく増大していく蓋然性を伴います。

往時44歳の決裁する僕に二人の部長は教示下さいました。「知事、公共事業は『小さく産んで大きく育てる』ものです」と。

岐阜県の木曽川水系揖斐川(いびがわ)に建設された徳山ダム。「もはや戦後ではない」と「経済白書」が記した翌年の1957年=昭和32年に発表。日本万国博覧会=大阪万博翌年の1971年=昭和46年に着手。計画から51年後の2008年=平成20年に竣工。消滅した8集落・466戸・522世帯を描いた映画『水になった村』の徳山村は、ダム湖の湖底に眠っています。

特別天然記念物イヌワシやクマタカ営巣地への影響を最小限に食い止めるべく建設機材に保護色を塗装。加えて「環境に配慮」した隧道を含む周回道路の建設費が嵩(かさ)み、1976年時点で330億円、1985年に2540億円、最終的には3550億円に膨れ上がりました。

閑話休題。「215」と「2150」。どちらの数字が大きいですか?子供でも回答可能な「正解」は、行政機関に於いては「誤答」。公共事業は単位百万円、一般事業は単位千円で予算書に記載。前者は215,000,000円。後者は2,150,000円の“視覚的詭計”。

庁舎内の食堂で530円の昼定食を摂った土木部職員は215と計算機に打ち込む際にマァこんなもんかと。福祉部職員は2150をデカいなぁと錯覚。政府も自治体も、公共事業と一般事業で単位が異なる予算書。

往時の電子式卓上計算機には「億」「万」キーが存在。前者を2億1500万円、後者を215万円と記載する信州独自の予算書仕様に改め、1円単位からの意識改革。「増税なき財政再建」を敢行。無論、小生の退任後は元の木阿弥(もとのもくあみ)な長野県ですが(苦笑)。

通行車両が見当たらぬ川上大橋(川上村道)の空撮動画

https://www.youtube.com/watch?v=Paz2VxXcvbs

日本一のダムは“ムダ”なのか 徳山ダムに関する東海テレビ「NEWS ONE」動画9分30秒 https://www.youtube.com/watch?v=IVfB0vQga18

徳山ダムに“好意的”な紹介動画

https://www.youtube.com/watch?v=T5FOqTij1CA

「ウルグアイ・ラウンド農業合意関連国内対策事業費」とは

細川護熙内閣で1996年に予算執行の「ウルグアイ・ラウンド農業合意関連国内対策事業費」は6兆0100億円。その53%は「農業農村整備事業」と称する公共事業。対する“ソフト事業”の新規就農対策は0・4%。新技術開発は0・1%でした。斯くなる「ハコモノ」偏重行政は令和の御代も変わりません。

視覚的詭計な「215」と「2150」

「中央」に吸い取られるダム建設の予算構造

『「脱ダム」宣言』

膨大に膨れ上がった八ツ場ダム建設費用

手足の爪を切るのと同じく重機を用いて1㎡1万円で実施可能な河道掘削=浚渫こそ治水の基本前世紀型OS「造る」から「創る」へ!

Vol.120「「治す・護る・創る」

https://tanakayasuo.me/archives/37043

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2024/02/175d22a37478869245a4e4761ed99f82.pdf

「従来のハコモノ土木建築」から「私たちの文化を遺す公共事業」への転換とはなにか? “越後湯沢化”を防ぐべく、街並みという景観の保全を「マンション軽井沢メソッド宣言」「軽井沢まちなみメソッド」で成し遂げた田中康夫が、明治神宮外苑地区「再開発」の欺瞞を看破するVol.115「景観とはなにか」  English Version英訳付きhttps://tanakayasuo.me/archives/36689

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/07/3c049cbb702968a4e701ff5df14e1cee.pdf

✽ 「間違いだらけの日本の治水・治山」まとめサイトhttps://tanakayasuo.me/forest

水害は『脱ダム』のせいなのか!?田中康夫の実践的『治水・治山』原論https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2019/11/2483bc3c1af4c33cdd7ef6aba9fddfdc.pdf

冬季オリンピックの負の遺産を抱え、「財政再建団体」転落寸前だった信州・長野県。行政経験が皆無だった44歳の田中康夫は、如何にして「福祉・医療・教育への傾注投資」と「財政の健全化」を両立させたか!

「地域で出来る事は地域で」の理念を掲げ、地域密着型の公共事業へと構造転換。47都道府県で唯一、借金を1301億円減少させ、プライマリーバランスを7年度連続黒字化。実質経済成長率5%を達成。「緊縮財政VS積極財政」の不毛な二項対立を超えた「Ya‘ssy財政メソッド」を語るVol.119「増税なき財政再建」。https://tanakayasuo.me/archives/36910

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/12/a7ff7d7135f1aa2c71991edcc7b0903c.pdf

「文字起こし」田中康夫の哲学を語り尽くしたILO国際労働機関日本代表との公開対談  2004年10月30日「これからの地域・くらし・仕事〜自治と協同の21世紀モデルを〜」https://jicr.roukyou.gr.jp/oldsite/publication/2004/149/149-tripartite_talk.pdf

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