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VERDAD 「田中康夫の新ニッポン論」 Vol.119 「増税なき財政再建」

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「緊縮財政VS積極財政」。使い古された惹句(じゃっく)を用いた不毛な甲論乙駁(こうろんおつばく)が続く斜陽国家ニッポン。

然(さ)りとてネガティヴな印象を与える前者を「節約」、ポジティヴな後者を「放漫」と言い換えれば万事解決な筈もなく、然(さ)すれば我々は「増税なき財政再建」の原点に立ち返るべきです。

2000年10月26日、地方自治法に基づく民選知事が53年間で僅か3名だった信州・長野県で県知事に就任した僕は、当時の出納長から、1日の利子支払額が1億4813万円に達し、公債費負担比率≒実質公債費比率は全国ワースト2位との説明を受けます。

「信濃毎日新聞」が1985年に打ち出した五輪招致キャンペーンが“功を奏し”、僕の就任2年半前に開催の第18回オリンピック冬季競技大会に伴う公共投資“宴の後”も遠因との「弁明」も含めて。夕張市が財政再建団体に転落する7年前の“逸話”です。

「独善的で稚拙ともいえる政治手法により県政の停滞と混乱を招き」と断罪の不信任決議(賛成44人・反対5人、欠席11人)を挟んで在任6年間、47都道府県で唯一、債務残高=借金を計1301億円減少させ、基礎的財政収支(プライマリーバランス)も同じく唯一、7年度連続で黒字化。

1日当たりの利子支払額も3299万円削減。就任から5ヶ月後の平成11年度の県債残高1兆6391億円は、2006年8月31日の退任から7ヶ月後の平成18年度末には1兆5090億円へと減少。

実は王道も覇道も魔法も存在せず。事業予算が削減されると規模も箇所も縮小してしまう短絡的な官公庁の発想から、切磋琢磨で単価を下げて規模と箇所を維持する発想へと改めるべく、あらゆる分野で公明正大な一般競争入札を、「地域で出来る事は地域で」の理念の下に実践したまでです。

一例を挙げれば県道の維持修繕。東京に本社を構える道路舗装会社の孫請けに甘んじていた地元業者も応札可能となり、明らかに談合が疑われる97%以上だった平均落札率は全国で最も低い70%台後半へ。即ち1箇所100万円要していた随意契約や指名入札の事業が8掛けの1箇所80万円で実施可能に。採算割れ低価格入札を疑った記者クラブ媒体が業者にアンケートを敢行するも、「脱・中抜き発注」入札改革の成果と総じて回答。記事化出来ずに終了。

他方で“安かろう悪かろう”の結果を生まぬよう品質検査業務を担う部局横断チームを土木部・農政部の老練な技術系職員で創設。すると落札率の「低さ」は4位へと“転落”。前述の媒体が「長野県の落札率ダウン」と報じる意趣返しも生じました。

手厚い補助が中央政府から得られる道路建設時と異なり日本では、維持修繕費は全額地元負担。詰まり使途限定の補助金に非ず。斯(かくて生まれた入札差金を、人が人のお世話をして初めて成り立つ福祉・医療・教育・環境・観光等の分野に傾注投資。全国で最初に小学校全学年で30人学級導入の原資にもなりました。

今日日(きょうび)の経済状況と些か異なるとは言え、最終年度に実質経済成長率5%を達成したのも、手前味噌ながらも県民の理解と職員の協力を得て“弛(たゆ)まず・怯(ひる)まず・屈せず”「造るから治す、護る、そして創るへと発想と選択を変え、仕組を変える」施策を行ったから。

と少なからず自負していたのですが、国政に転じた2007年晩秋、中央区築地に本社を構える媒体の論説委員は僕に、国防を担当せぬ自治体と国の財政再建を同じ土俵で語るのは無謀だと諫言(かんげん)します。

再選の2002年9月に「おともだちを増やそう」と、敗退の2006年9月には「大人になれなかった知事」と社説に見出しを冠して“激励”して下さったのと合わせて改めて想起。ニャハハ。

冬季オリンピックの負の遺産を抱え、「財政再建団体」転落寸前だった信州・長野県。

行政経験が皆無だった44歳の田中康夫は、如何にして「福祉・医療・教育への傾注投資」と「財政の健全化」を両立させたか!

「地域で出来る事は地域で」の理念を掲げ、地域密着型の公共事業へと構造転換。

47都道府県で唯一、借金を1301億円減少させ、プライマリーバランスを7年度連続黒字化。実質経済成長率5%を達成。

「緊縮財政VS積極財政」の不毛な二項対立を超えた「Ya‘ssy財政メソッド」を語る

「田中康夫の新ニッポン論」Vol.119「増税なき財政再建」。

 

 

参考資料

田中康夫の哲学を語り尽くしたILO国際労働機関日本代表との公開対談  2004年10月30日

これからの地域・くらし・仕事〜自治と協同の21世紀モデルを〜

https://jicr.roukyou.gr.jp/oldsite/publication/2004/149/149-tripartite_talk.pdf

 

水害は『脱ダム』のせいなのか!?田中康夫の実践的『治水・治山』原論

https://tanakayasuo.me/river

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2019/11/2483bc3c1af4c33cdd7ef6aba9fddfdc.pdf

Vol.120「治す・護る・創る」
https://tanakayasuo.me/archives/37043

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2024/02/175d22a37478869245a4e4761ed99f82.pdf

Vol.115「景観とはなにか」

https://tanakayasuo.me/cityscape

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2023/07/3c049cbb702968a4e701ff5df14e1cee.pdf

 

Vol.110「正しいハイエク」

https://tanakayasuo.me/archives/36259

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2022/12/4490dfe4892807f94a1a2dc2eaf781a0.pdf

 

Vol.108「新しいケインズ」

https://tanakayasuo.me/archives/34648

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2022/10/7f3b2d02cd06d12e6c6a85f3d53abff7.pdf

 

Vol.105「中抜きビジネス行政」

https://tanakayasuo.me/archives/32803

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2022/07/9054a4dc85b376f399350cbbc3b545c9.pdf

 

Vol.97「帰納法 弁証法」

https://tanakayasuo.me/archives/30807

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2021/10/d54dc73c89d3bcadb2ef0103c4e18013.pdf

 

Vol.95「消費者資本主義」

https://tanakayasuo.me/archives/29037

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2021/06/97b8d33714e3ae089a4822c93993a6e7.pdf

 

Vol.「社会的共通資本」

https://tanakayasuo.me/archives/22210

https://tanakayasuo.me/wp-content/uploads/2018/03/4a7cdb336435f35eab37f9747355f8b1.pdf

 

「田中康夫の新ニッポン論」バックナンバー

https://tanakayasuo.me/archives/category/verdad

 

「VERDAD」HP

https://www.bestbookweb.com/verdad/

「ヴェルダVERDAD」とはスペイン語で「真実」

 

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